六弦的魔力電

2003年01月23日 状況が大きく動き始めた!


この幻を追い続け27年。

「ピッカピカのを届けますので」

突然の「電話編」に突入!

落札から丸2か月目の日だった。倉庫 番(くらこ つがい)は反芻するかのように過去の経緯を思い返していた。そして、出品者へは相変わらず沈黙を守り続けていた。無言の恫喝。動かない事を最善手と決めていた。だがその日、状況は突然走り始めた。

ついにヤフー・オークションが動き始めた。悪質なオークション参加者の排除。それをマスコミはこぞって報道した。

♪〜〜〜風の中のす〜ばる〜〜〜(オリコン1位おめでとう!)〜〜〜♪

私家版

プロジェクト
HEX(ヘックス)
「D-45を追え!電話編」

2003年01月22日。ヤフー・オークションは、入金してもなかなか商品を送ってこないと報告があった「悪質出品者」と思われる人々の振り込み口座名を、公表するとマスコミに発表した。やがてそれは倉庫 番(くらこ つがい)も知る事となった。倉庫 番はそのリストに、今回の出品者の口座名が存在していると予測していた。確認のため、ヤフーにアクセスした。

ヤフーはどのページで発表しているのか?TOPから入ってみた。そのような掲示は見つからなかった。次々にたどって行くうち、掲示ページのリンクが見えた。開いてみた。そこには90もの口座名が羅列されていた。上からたどってみた。そして、問題の出品者の口座名もそこに存在した!面白れえ!これで沈黙の「アンブッシュ作戦」とはお別れができる。堂々と「攻撃」へ転じる事ができる。倉庫 番はほくそ笑んだ・・・。

ではまずどうやって攻撃を開始するか?手始めに久々にメールを送ってみる事にした。作戦は「今回の取り引きを信じ切っている小心者が少し疑問を抱き始めた瞬間」を演じる事だった。ヤフーの発表したリストを見て驚いた風を装った内容のメールを書いた。手負いの獣は追い詰められると反撃に出る。倉庫 番は「手負いの獣」をメールの中で演じていた。長い沈黙が過ぎた後の突然のメールは、出品者を動揺させるはずだった。

そして・・・送信した。

現在出品者は、ヤフーの振り込み口座名リスト発表を目にし動揺しているに違いない。落札者達から問い合わせのメールが出品者に殺到している状況は読めた。それは出品者の弱っている心臓に負担をかける。追い討ちをかけるような倉庫 番のメールだった。「心室細動」無気味な医学用語が再び倉庫 番の脳裏を掠めた・・・。

倉庫番は、どのような決着を出品者に求めているのか?もう何が本来の目的であったのかは分からなくなっていた。とにかく「決着」だけが行きつく先だった。それを見極めたかった。D-45の存在意義は日々薄れて行った。出品者の手元にあるはずのD-45は、すでに倉庫 番にとって意味をなしていなかった・・・。

そもそも、D-45が存在しない前提で考えれば、すべてのつじつまが合う。それを無理して「存在すると信じる」ことで倉庫 番は2か月を過ごしてきたのだった。イラダチを「黒い炎」に昇華し、届かない時間を喜びへと還元していたのだ。「信じる」事を自分に対して演技し続けていただけだった。決して本心で信じる瞬間なぞ無かった。だが、その思いがここまで倉庫 番を引っぱって来ていた。近々決着させてやる・・・。

その夜、帰宅した倉庫番は夕食の途中一本の電話を受けた。

妻   「●●さんっていう人から電話よ!」

倉庫  「はい。倉庫です!」

出品者 「 ●●です。どうも御迷惑をおかけしてすんません!」

倉庫  「で?どうしたんですか?」

出品者 「本当に長引かせて申し訳ない事です。年明けにインフルエンザにやられて、
     それが肺炎にまでなって長引きました。もう大丈夫ですから」

倉庫  「そうでしたか・・・もう歳なんだから気を付けて下さいよね!」

出品者 「ありがとうございます。倉庫さんのように信じて待っていただいていると
     非常にありがたいです。明日ヤマトに持ち込みますので、明後日には、
     検索出来ると思います。通常の宅急便では無いです」

倉庫  「楽しみに待ってますよ!」

出品者 「ここまで信じて待っていただいたのですから、
      ピッカピカのを届けますので、待っていて下さい。それでは失礼します」

電話を終えた時、倉庫 番は大笑いしていた。出品者の言葉を信じた笑いでは無かった。昨年12月中旬の「手渡し反故」の事実がそれを物語っていた。出品者は慌てふためいている。口座名の発表で動き出す可能性がある落札者達を押さえ込まなければならない。商売の危機がその説得にかかっていた。

倉庫番は電話で聞いたばかりの言葉を思い出していた。その中に気になる言葉が一つあった。「ピッカピカのを届けます」この意味を解釈すると、そこには新しい展開が見えて来た。今までの動きの中で見えていなかった新しい事実かも知れなかった。

もともとオークションに出品されていたD-45は「友人から依頼された代理出品」のはずだった。その画像には美しい品ではあるが明らかに3つのピックスクラッチがあると書き込まれていた。それを今になり、あえて「ピッカピカ」と表現するのには理由があるはずだった。

倉庫番に届けるといっている「ピッカピカのD-45」がもし本当だとすれば、それは出品されたモノとは個体が違うと考えられた。その理由はかつて出品者の娘が知らせて来た「仕入れ伝票」の数字にあった。「父は50万円でD-45を確かに仕入れている」と知らせて来たのだった。依頼された代理出品物に対して落札価格より高い金額を払うはずは無い。それが倉庫 番の中で喉の小骨のようにひっかかり続けていた。

「50万円仕入れ」で考えられる別のケースとは何だろうか?倉庫 番は推理を始めた。

定価105万円のD-45は、大手楽器店では通常、定価の70%〜80%で販売する。新品はおおむね70万円台で販売されている。では楽器店の仕入れ価格はどうなのだろうか?常識的に考えれば仕入れは定価の50%以下だ。つまり、楽器販売業者としてルートに乗った仕入れが出来れば「50万円」で新品を手に入れる事も可能となってくる。この事実から推察すると・・・。

出品者はまず、売りに出ている中古のD-45を見つけ、空のオークションを行なった。その代金を運転資金の一部にし、11月末を乗り切った。12月に入りすぐに、目を付けていたD-45を手に入れようとしたが、売れてしまっていたのかすでに手に入らない状態になっていた。そのままでは「詐欺」になってしまう。出品者は慌てた。次のD-45を捜す為時間稼ぎを始めた。だが、D-45の出物がそう簡単にあるとは思えなかった。

落札者が納得するクオリティーのD-45が見つからなければならない。やはり、すぐには見つからなかった。苦慮の末、出品者が出した答えは「新品購入」だった。落札価格よりは高いが、いつ出てくるか分からないD-45を待っていられる状態では無かった。高額落札者はその価格の分だけ反動も大きく強いはずだった。出品者は自腹を切る覚悟をした。「新品」を注文した。

だが、注文をしてすぐに出品者は高血圧と心臓病で倒れてしまった。D-45クラスになると注文してもすぐに届くワケではない。しばし時間を必要とした。やっと2002年末になり入荷のめどがたった。冬休みには発送出来ると考えていた。ところが、出品者はインフルエンザに罹った。さらに肺炎も併発していた。心臓病の痛手も残っていた。寝込むうちに身動きが取れなくなり、まったく発送処理できなくなった。膨大な未発送商品が山積みとなっていた。

1月中旬になりやっと体力を回復した出品者は、小さな商品からコツコツと発送を開始した。大きな商品は梱包するのにも体力を使う。D-45にはなかなか手がつけられなかった。そして、充分に体力が回復した1月22日。ヤフーの思わぬ発表に焦った出品者はついにD-45の梱包に手を付けた。そして、倉庫 番へ電話を入れた。


推理はあくまでも推理であった。これが事実かどうかは知る由も無かった。電話の声を信じれば1月25日にはD-45が届くはずだった。信じるのか?そんな事はもうどうでもよかった。信じたところで裏切られれは同じだった。倉庫 番は、どのような形であれ「決着」だけを静かに待っていた。

♪〜〜〜エンディング・テーマ〜〜〜♪

再びめぐり来る納品予定日。そこに倉庫 番(くらこ つがい)は何を見るのか?
男達の悲しい戦いは今日もまだ続いていた。

♪〜〜〜予告・テーマ〜〜〜♪

*このストーリーは、現実をモチーフにしたフィクションであり、
 登場した個人名、団体名、地名、商品名等は架空のモノです。

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